【ひき逃げ】衝突した認識なく否認 立件なし

相談内容

 Aさんは,原動機付自転車に乗って道路を走行していました。すると,前方から,自転車が道路の右側を走行し,逆走をしてきました。
 Aさんが,その自転車とすれ違う際に,Aさんは,自転車をぎりぎりでかわし,自転車と接触した衝撃はありませんでした。もっとも,Aさんは,万が一にも,自転車と接触していたらまずいと考え,原動機付自転車を停車させ,自転車の運転手のところへ向かいました。
 Aさんが,自転車の運転手の方に怪我がないかを尋ねたところ,相手の方は,怪我はしていないが,接触はしたので,警察に通報すると言いました。Aさんは,接触した感覚もなく,相手の方が興奮して,会話もできなかったため,その場を立ち去りました。

 数日後,その現場を通りかかったところ,ひき逃げ事故があったという,警察の看板が設置されていました。

 Aさんは,自分が,ひき逃げの犯人として,疑われているのではないかと考え,相談に来られました。

弁護士の活動

 まず,弁護士は,Aさんが,逮捕される可能性を低くするため,Aさんと弁護活動について,協議したうえ,警察署へ任意で出頭することにしました。
 警察署に出頭した際には,警察署から事情聴取をされ,供述調書が作成されることがあります。弁護士は,Aさんの言い分を正確に,警察に伝えるため,弁護士の方で,Aさんの言い分をまとめた供述調書を作成しました。本件では,Aさんの言い分は,そもそも,相手方の接触しておらず,相手が怪我をするような事故があったという認識がなく,故意を欠くため,犯罪が成立しないというものです。しかし,捜査機関に供述調書を作成されると,犯罪の故意があると解釈されてしまう内容の調書が作成されるおそれがあります。そこで,これを避けるため,弁護士側で調書を作りました。
 そして,弁護士から,警察署に連絡をして,日程調整をしたうえで,弁護士とともにAさんは出頭しました。その際に,この供述調書を警察署に提出しました。

 その後,相手の方が弁護士と話をしたいという申出があったと警察署から連絡がありました。弁護士から,相手の方へ連絡をすると,相手の方は,Aさんがその場から立ち去ったことにお怒りであり,この点について謝罪してほしいとのことでした。そして,Aさんからの謝罪があれば,刑事処分や損害賠償請求を求めないとの意向でもありました。

 弁護士が相手の方と話をしたなかで,刑事訴訟になった場合に,Aさんにとって,不利な事情があることもうかがわれました。そこで,弁護士とAさんで協議をし,Aさんの言い分に矛盾しない限りで,相手の方に謝罪をし,その事情を捜査機関に伝えることがよいと考えました。

結果

 弁護士から,相手の方に作成いただいた,損害賠償請求や処罰を求めないという書面を警察署に提出しました。

 その後,弁護士から,Aさんの事件の捜査状況を確認したところ,これ以上は捜査を進めず,Aさんには特に刑事処分はされず,立件せずに事件は終結しました。

 本件では,Aさんが故意を否認し,相手の方の認識とも異なる認識を持っていました。このまま捜査が継続した場合,Aさんが起訴され,故意を否認するAさんの主張が認められずに,前科がつくというおそれもありました。相手の方の言い分が,証拠として裁判所に提出されると,裁判所は,被害者の言い分を信用し,これに反するAさんの言い分は,信用されないということが,往々にしてあります。

 そのため,相手の方の意向も踏まえ,直接謝罪をし,宥恕を得たうえで,起訴を免れるという方針を選択しました。これが功を奏し,検察庁へ事件が送られることもなく,事件が終結し,Aさんにとっても最も負担のない方法で,解決をすることができました。